「大畑原則」 Ver 1.7

*序言

*大原則

*コミュニティの原則

*実現のための戦略

*リージョン(地域)の原則

*序言

かつての日本で縄文時代の“まほろば”を成立させたのは自然の恵み豊かな森と川と海だった。人は生き物を殺して食べることで自らの栄養とし、個体数を増やして今日まで発展してきたともいえる。しかし、18世紀初めの産業革命以降は、ヨーロッパで生まれた近代文明が全世界に広がり、森、川、海、大地を人間の都合だけを考えて“開発”し尽くしてきた。日本でも1950年代半ばからの高度経済成長期以降、自然が豊富だった農山漁村で森林伐採や河川改修、海岸護岸などの開発工事が行なわれ、農薬の使用や減反政策に伴う田んぼの消失のため、蛍やトンボが群れをなしていたかつての牧歌的な故郷は存在しなくなったといわれる。こうした開発行為は生き物のためのビオトープ(生息空間)を奪い、食物連鎖の底辺であるプランクトンや微生物を減らし、昆虫、小動物、大型哺乳類など多くの生き物を絶滅に追い込んでしまった。こうした生き物の絶滅は、生き物を殺して食べなければ生きていけない人類にとっては死活問題のはずである。大畑原則では、縄文時代からの時間軸の発想によって現在の人間の活動を見直し、自然の多様性、循環性、柔軟性を損なうことなく、それでいて各人が一体感を持ったコミュニティの一員として伸び伸びと暮らしていける、新たなシステムを提案するものである。そこには海中林(海藻類)から河畔林、森林、街の中の“恐怖の森”といった林系がつくられ、自然の循環システムに支えられたサバイバル・コミュニティ(生き残るための街)が出現する。その中で、縄文時代からの折り返し点として現代をとらえ、8000年後の未来に向けて、循環性、多様性、柔軟性、コスモロジー、ネットワークをキーワードに、想像力を刺激するマチを模索していこう。季節のリズムに合わせた生活とは何かを真に追求していこう。このシステムの追求こそがサステナブル・コミュニティの前提となると確信する。

*大原則

「命を殖やす」〜人間の活動を自然のストック資源を蓄積する方向に変えていくこと………枠を超えたコミュニティの創造を目指して。

*コミュニティの原則

1《森、川、海、大地》

〈森〉は、獣が棲みつき神々が坐す「奥山」、建築用の木材を育てる「生産林」、薪炭材や腐葉土などを利用する「里山」に区分する。この区分によって人も含めたあらゆる生き物が棲みわけを可能とし、多様性と柔軟性に富んだ森のサイクルが回復することになる。また、木材及び薪炭材の地域内自給を目指す。「奥山」は手つかずの場として残す一方、「生産林」は、生態系に配慮して沢や尾根周辺を除きながら細分化。樹木成長のサイクルに合わせて輪伐サイクルを設定する。ここでは営林署がこれまでの知識、技術を総動員して山肌を痛めない伐採方法を実施。その一方でナショナル・トラストによって山林地を買い上げ、地域のストック資源を殖やす目的で植林運動を展開していく。「里山」では、薪炭材、腐葉土を自然のサイクルに合わせて生産していくシステムを確立する。「生産林」や「里山」の適度な利活用は、人や動物たちの食糧となるたくさんのキノコや山菜が成育する条件を整えることにつながる。また、水源かんよう、炭酸ガスの固定化など、森が果たすべき公益的な効果を増すように促していく。

〈川〉は、生態系に配慮した近自然河川工法の実践により、水田や畑、河畔林など後背地を含めた豊かな河川エリアを、生き物のためのビオトープ(生息空間)として復元する。さらに、数十年に1度は起きる大雨による河川氾濫を想定して、川の上流部に霞堤や越流堤を築いて“自然の氾濫” を誘導。これにより、下流域の市街地を洪水から守るのと同時に、水の勢いを逆利用して後背地の土壌を肥よく化。ビオトープの多様性にも貢献させる。

〈海〉は自然のろ過器である砂浜を復元。テトラポットに替わる石組みの消波施設や新方式の防波堤など近自然海岸工法を開発する。これらによって全ての浅海域に海中林(植物プランクトン、海藻類)を復活させ、港湾も船着き場以外の多様な役割を持たせる。また、自然のサイクルを利用して下水、生活雑排水の浄化を的確に行い、川や海に流れ込む水をきれいにする。さらに、イカの腑など水産加工によって生ずる廃棄物を飼料化して海に返し、魚たちの餌とし、豊かな海中林の繁茂に貢献させるなど陸と海との循環サイクルを回復する。

〈大地〉NPO(非営利団体)が遊休地を活用。木炭を土壌改良材に利用して無農薬、有機栽培で水田や畑を耕作し、食糧の地域内自給を目指す。水田や畑は、タニシ、ドジョウ、フナ、ホタルなど多様な生態系を復活させ、巨大な胃袋たる人間の生存を保証。同時にトトロが棲みつく余裕のある空間を生むことになる。農作業には老人や子どもの参加を呼びかけ、モノを育てる喜びや収穫する喜びを分かち合う。

〈水〉「洗濯などは水道水。飲み水は井戸水」というように、水道水と井戸水の両立を目指す。地下水が涸れたり、地盤沈下したりするのを防ぐため、自噴している井戸を共有してみんなで利用。非常時に備えていつでも飲める水質を維持する。井戸水は地上環境のバロメーターである。

〈大気〉フロンガスによるオゾン層破壊を防止するため、車のエアコンなどフロンガスや代替フロンガスは大気中に放出せずに回収する。ゴミゼロ社会を目指すことで焼却場からのダイオキシン発生を防ぐ。脱クルマによって炭酸ガスの排出を減らす。

2《街、建物》

〈街〉近隣居住者と商店街が一体となり、命を殖やす“使命”を共有する「使命共同体」を設立。フェアトレード(公正な取り引き)の精神で商品価格を決め、商店街側はその代償をコミュニティへ還元する。つまり、コミュニティの祭りやストック資源を殖やすための資金(生産者への還元も含む)を提供する〜金銭循環によるストック資源の増大。さらに、近隣コミュニティや他のリージョンの使命共同体も支援する。また、季節のリズムに合わせた食料品の低コスト販売を積極的に推進、生産者から消費者まで顔の見える関係をつくりあげていく。

〈建物〉公共施設はもちろん一般住宅は、地域の森林資源を活用して建築する。他の地域の木材はできるだけ使用せず、住宅の耐用年数は樹木の成長サイクルに見合ったものにする。150年の樹齢を持つヒバなら、300年間は長持ちする住宅を建築。時間を経るに従って逆に価値が増すというアンティーク家具のような住宅を目指す。建物の造りは自然エネルギーを有効利用して冷暖房費を節約。匠の伝統技術を生かして外壁を木材で被うなど、デザインの基本理念を制度化して統一する。また、メンテナンスも含めて地域の中で製材、建築、解体、再利用など流通の循環システムを確立させる。

〈脱クルマ〉期間と時間を定めて商店街へのクルマ通行を禁止。路面電車、駅馬車など公共交通機関を復活させ、スポットからスポットへの移動手段として利用する。その他、街全体を自転車のよる移動や歩行を促すように作り変える。例えば、道路舗装をコンクリート式から石畳式に変更する。石畳が持つ隙間は、小さな生き物のためのビオトープを復活させ、そこから水を浸透させて地下水脈へと導くことで内水氾濫による洪水も防いでくれる。

3《ゴミゼロ、省エネ》

〈ゴミゼロ社会〉を目指し、廃棄物を循環させるために産業の共生化を進める。つまり、民間、公共セクター、農業や養殖業などさまざまな企業や個人が水、熱、廃棄物を資源・エネルギーとして循環させて相互に利用しあうデンマーク型の仕組みをつくりあげる。ヒバは捨てるところがない。ヒバ油を搾った後のおが屑は炭化して土壌改良材にする。生ゴミをたい肥化する。再生紙の生産と循環を図る。

〈自然エネルギーの利用〉太陽電池、風力、地熱、波力、薪炭など分散型の自然エネルギーを利用する。地球温暖化を進める石油、石炭火力や、廃棄物を生み出すエネルギーへの依存はできる限り避ける。また、ライフスタイルを自然サイクルに合わせて余計なエネルギー消費を避ける。

〈コンパクトな街〉市街地、住宅地は省エネルギーのために効率化を図る。山麓を住宅地にして、そこへ通じる道路を建設すれば、冬期には除雪が必要となり、無駄なお金とエネルギーを使うことになる。街はもっとコンパクトに小さくまとまっていた方が効率的。ヒューマン・スケールのコミュニティがふさわしい。

〈丘陵地の開発規制〉将来、炭酸ガスによる地球温暖化が進んで極地の氷が融け、海面の上昇が起こると思われるが、その時の土地利用を考え、丘陵地を森林のまま残してリザーブしておく。そのために水道管の設置に際して高さ制限を設けるなど、丘陵地の開発を規制する政策をとる。丘陵地に多い縄文遺跡は我々の子孫の生活を保証するものであり、緊急事態が起きた時を除いて開発の対象とするべきではない。

4《コスモロジー》

〈恐怖の森〉コミュニティは“恐怖の森”を含まねばならない。恐怖の森とは獣や神々が棲むと想像させる奥山のような場所。市街地の中にあっては河畔林や鎮守の森、屋敷林、自然に近い森林公園など。恐怖の森は人に自然への畏怖を取り戻させ、儀礼、神話、祝祭を育み、人の枠を超えたコミュニティを生む。また、市街地の緑は地域防災や人の隠れる場所をつくる役目もある。屋敷林や街路樹などにはクリ、クルミ、グミ、スグリ、クマイチゴなど実の成る樹木を選んで植える。実の成る樹木は昆虫、鳥、リスなどの生き物を殖やすと同時に、食糧危機に見舞われた際の非常食となり、将来にわたるサバイバル・コミュニティを保証してくれる。

〈旧道の復活〉クルマのための直線的な道路以外に、そのブロックの内側に残っている歴史の道を蘇らせ、歩くための街路を整備する。辻の地蔵さん、祭り、広場、井戸、物語のある路地の復活を伴う。ここではクルマの通行は厳禁。かつて見た風景を彷彿とさせる迷路を復元させ、恐怖の森とつなげることで想像力を刺激する空間を創る。

5《ネットワーク》

〈地域内情報網〉によってコミュニティのデジタル情報革命をスムーズに進行。インターネットを活用して地球規模のネットワークを独自に模索。ストック資源を蓄積するためのアイデアを結集する。ジョイント・ベンチャーへの布石ともなる。

〈ジョイント・ベンチャー〉ベンチャー企業が独自のアイデアや地域資源を生かして他の個人やベンチャー企業とジョイント(連携)し、多様なプロジェクトを推進する。プロジェクトによる収益金の一部は、ストック資源を殖やすための資金としてコミュニティーの内外に提供される。

〈市民バンク〉NPOと地域の金融機関がジョイントして市民バンクを設立。ジョイント・ベンチャーを資金面で支援する。また、基金を積み立てて近隣のコミュニティや他のリージョンを支援する役目も果す。

*実現のための戦略

1《公共工事の変革》

公共事業によるストック資源の蓄積を可能にするために、行政、社会、産業のシステムを根底から変革していく。例えば河川改修では近自然河川工法を実施。営林署が生産林を伐採するにあたってはトラクターではなく架線集材機などを利用する。または、樹木の成長が下降線に向かう旧暦の9−10月に伐採、冬期に雪上車で運び出せば山肌を痛めなくて済む。

2《土地価格の平準化》

商店街などコミュニティ中心部と郊外住宅地の土地価格を平準化して価格差をなくし、商店と居住者たちの商店街地域への還流を誘導する。この還流が居住者と商店街が使命共同体を設立するための前提となる。

3《業界の果す役割》

各業界はそれぞれのノウハウを結集してコミュニティとの使命共同体に参画する。例えば建築業界は長持ちする住宅建設を技術面でサポートしたり、木製の外壁材利用などデザインの統一に意見を出して貢献するなどが考えられる。

4《コミュニティを使命共同体に》

商店街地区のようにコミュニティとリージョン(地域)をストック資源増大のためのひとつの協同体につくりあげる。リージョン・ステーツ(地域政府)が選択されれば、その地域政府がその旗振り役を担う。

///リージョン・ステーツの選択が可能になるためには、行政改革、財政再建、地域分権によって中央集権の枠組みを変えていかなければならない。そのためには将来の各リージョンがそれぞれのビジョンを出し合い、人類が未来に生き残るための方策を示す以外にない。リージョン・ステーツが選択された場合、次に挙げる「リージョン(地域)の原則」が適用される。

*リージョン(地域)の原則

1《リージョン(地域)》

いくつかのコミュニティが集まってリージョン・ステーツを作り上げ、民間企業やNPOがリージョンの“経営”を担う。リージョン・ステーツの中心は立法権と徴税権を持ち、自治権を保証される連邦となる必要がある。

2《アイデンティティ》

リージョン・ステーツは独自に世界と交易を行う自立経済圏(フリー・ゾーン)を目指し、そのための経営が必要となる。特徴付けのためある分野では世界の中心でなければならない。下北半島であれば世界のイカ文化の中心地。大畑で旗揚げされるイカの文化情報センター(日本頭足類学会)と国際頭足類研究センターを基点とし、世界に向けたネットワークをつくりあげる。

3《フリー・ゾーン(自立経済圏)》

リージョン・ステーツが独自の外交を展開し、世界的な影響力を自前で確立することで、経済的な自立が得られる。これがフリー・ゾーンである。15世紀までの下北半島を舞台とした「東北太平記」によると、下北半島は日本国には組み入れられず、海上交易によって独自の外交を展開した。各地のコミュニティは経済的に独立していた。つまりフリー・ゾーンだった。大畑原則の終着点はこのフリー・ゾーンであり、これが現実のものとなれば新世紀のノマド(遊動民)たちへと引き継がれるものである。

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